2017年5月の読書と感想


戦後ドイツ―その知的歴史 (岩波新書)戦後ドイツ―その知的歴史 (岩波新書)感想



東西ドイツの統一1年後に書かれたもの。第二次世界大戦後の西ドイツの思想について。もっと読まれるべき本(どれくらい読まれているのかは知らない)、戦後日本を考えるために。/歴史家論争およびハーバーマスの当時の位置づけを知りたいがためにざっくり読んだ。あまりにも時系列順にぐいぐい話をすすめるので、臨場感はあるが、読む側に関心軸がないと読み進めづらいかなと思う。

ー自分の生まれた年に書かれた本。ドイツが分裂していたというのは歴史的出来事としてしか認識できない世代でもあり、なかなか筆者三島さんとの距離は遠い印象。読み取れていないニュアンスがたくさんあるのだろうと感じる。

-60年代末の学生反乱とセクシャルレボリューション、ブラント政権下の教育改革などで学生のありようが大きく変わったという点にも注目しておきたい。

読了日:05月01日 著者:三島 憲一


学問は現実にいかに関わるか学問は現実にいかに関わるか感想

 

 

分量も硬さもバラバラな「小品集」。しかしいずれも「学問」と「現実」の関係について触れているもの。第二部の4丸山眞男論と7蝋山政道論、8満州事変ー日中戦争当時の日本の対外関係研究についての論文が興味深かった。が、あとがきにある「「現実」と「現在」を混同してはならない。」という(田中美知太郎を引用した上での)主張が最も印象的。

読了日:05月02日 著者:三谷 太一郎


ゲンロン0 観光客の哲学ゲンロン0 観光客の哲学感想



ひとまず一読。「この問題を今考える必要がある!」ということがこれほどよくわかる本はそうそうない。特に第一部の観光客の哲学。「ぼくたち」という人称も違和感なく入ってきてしまう。/家族を回避せず、市民社会も回避せず、しかしその先で国家とは違う政治組織をめざす。という第二章の一部分で早くも「家族」に躓いたが、だからこそ第五章はじっくり読んだ。/「憐れみ」や「家族」をキーワードにするせいか、ごくたまにだが中国哲学の本を読んでいる気分に襲われた。(ネガティブな含意はない。)

-第五章、アイデンティティに関しては非常に気になる。個人でも国家でも階級でもない第四のアイデンティティ。趣味の共同体(個人的には関心高め)は自由意志で簡単に出入りできるから核になりえない、としてバッサリ。候補にあげられるのは家族。家族とはいうものの婚姻ではなく親子こそが核になっている。日本のイエについても言及があり、参照は『文明としてのイエ社会』。思想の本筋とは逸れるし東さんの仕事とはあまり関係ないにしても、日本の「イエ」についてはもっとまともに研究されるべき。

-これも本筋とはずれた話だが、「観光」の定義などに関して、西欧しか参照されないのは物足りない。日本近世の「遊山」も参照されたほうがいい(他地域はわからないが)。まぁこれもおそらく専門的な研究の進展の問題。

-強制性、偶然性、拡張性と3つの家族の性質があげられている。「同期」とか、「同級」とか「同時代」などのつながりを少し連想する。

読了日:05月03日 著者:東 浩紀


私の履歴書〈第1集〉五島慶太、里見ク、鈴木茂三郎、杉道助、堤康次郎、新関八洲太郎、長谷川伸、原安三郎、松下幸之助、山崎種二 (1957年)私の履歴書〈第1集〉五島慶太、里見ク、鈴木茂三郎、杉道助、堤康次郎、新関八洲太郎、長谷川伸、原安三郎、松下幸之助、山崎種二 (1957年)感想


1956年の「私の履歴書」。1880年代~90年代生まれの人達なので、60~70歳あたりか。経済人が多い。五島慶太堤康次郎が一緒の年に書いているのは面白い。互いへの言及はそんなにないが。新関の普通のサラリーマンっぷりに好感を抱いてしまうくらいに強烈な個性の人が多い。みんな自己肯定感がものすごい。作家はひねくれていて、里見弴は面白いが、長谷川伸は何を書いているのかさっぱり、、、。

読了日:05月08日 著者:


再起動する批評 ゲンロン批評再生塾第一期全記録再起動する批評 ゲンロン批評再生塾第一期全記録感想



第2期最終講評会を流し見しながら、座談会部分を中心に流し読み。再生塾の試みについてはとりあえず「批評は一人でやるもんじゃない」という言葉に集約されている。/座談会最後で、反資本主義=反「作品」などといっている部分は「批評家とは「生き方」」なんていう安易な言葉で括っておくだけでは勿体無い視点じゃないかと感じる。/第一期の時は存在は知っていつつも全く見ずにいたが、第三期はリアルタイムに観客でいようかなぁとか思ったり。

-なにかしらを見るときにそれを一個で完結した「作品」としてみるか、そうでないか、って非常に明確な分岐点だと思っていて前者を前提に感想述べたり、創作しようとしたりする人とはあまり話が合わないという実感がある。この本とはあまり関係がない。

-課題と回答では、安藤礼二さんの文章が気になる。

読了日:05月08日 著者:東 浩紀,佐々木敦


フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ (中公新書)フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ (中公新書)感想


ホルクハイマーとアドルノがメイン。人物像や人物同士の関わりなどまで踏み込んで書かれるので、それぞれの問題意識がかなりわかりやすく感じられる。書籍・論文のタイトルや概念については聞いたことがあっても、人物像などはほとんど知らないことばかりなので、こういうものはとてもありがたい。日本での受容についても触れてくれていると、自分の位置の把握もしやすかったなとは思った。

読了日:05月10日 著者:細見 和之


公共性 (思考のフロンティア)公共性 (思考のフロンティア)感想



ハーバーマスアーレントを中心に、筆者自身の意見も述べつつ、「公共性」を巡る様々な言説をマッピングしている。参照軸として有用だと感じるので、もうすこしじっくり読み込んで明確に理解したい。/アイデンティティについては、自己のアイデンティティは複数であるべきこと、自己の内部での価値観の「複数性」こそ「思考」の前提であることがアーレントに則して言われている。

-「公共性は言説の空間である」として「言説」を中心に置いているわけだが、それがもたらしてしまう限界をいかに克服していくか、というのが議論の推進力になっているのかという、これは素朴な印象。

読了日:05月16日 著者:齋藤 純一


歴史の虚像を衝く歴史の虚像を衝く



読了日:05月16日 著者:笠谷 和比古


フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ (中公新書)フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ (中公新書)感想



再読。/構造主義的思想家たちとフーコードゥルーズデリダ、そしてデリダ以後のフランス現代思想を人物ごとに辿って概観する。それぞれの思想家が何を問題として思考したのか、そして何を問題として残して去っていったか。。。フーコーデリダについては時期区分もして変遷を述べているが、ドゥルーズについてが一番力がこもっているように思う。/ほぼ全員に対し「疑問は残されたままである」という言葉で章を閉じている。叙述への姿勢が明確。/メディア論的転回が気になるので、そのあたりの著作をチェックしていきたい。

-ブックガイドに伝記・自伝がまとめて載っているのはとても良い。/「マルクスの死」が叫ばれる中でのデリダマルクス主義へのコミットメント(”相続はつねに使命である”)なんて箇所を読みながら東さんと批評についてちょっと思ってみたりした。/個人の好みで言えば、概説であってもやはりデリダに一番惹かれる。

-しかし、フーコーはストレートに歴史を対象としているのだから、読まないといかんな、と思う。

読了日:05月19日 著者:岡本 裕一朗


いま世界の哲学者が考えていることいま世界の哲学者が考えていること感想



再読した『フランス現代思想史』が面白かったので読んだ。第一章は現在の英米独仏の思想動向がまとめられていて参考になる。以降の章はもはや「哲学者」がどうなどはあまり関係なく、現代社会に関する様々な著作のブックガイドという趣き。各学者・思想家への突き放した扱い方は『フランス現代思想』と同様。何を問題にして考察したか、と何を問題として残したか、が述べられる。第五章の宗教あたりは個人的に関心があるので参考になった。

-ブックガイドとして利用して、ここから広げていかないかぎり、あまり知識はつかないだろうなという感じ。全体の動向や何が問題とされているかくらいはわかるだろうか。紹介されるそれぞれの本の可能性をもっと独善的に読み込んでくれたほうが、面白いし、良い読書になるよなとは思う。確実に読み取れることだけを書いています、という筆致なので(実際そうなのかどうかはわからないが)。しかし、それはこの本に要求することではないだろうな。/「自然主義」って単語ややこしすぎるよ・・・。

-宗教の章で、「世界全体を視野にいれるべき」とテイラーらにコメントしているが、この本には西欧圏以外の本は全く出てこない。日本発の文献も皆無。まぁ出版社から求められていないということか。/筆致があまりにも読者然としすぎていて、ネットのレビュー記事を読んでいるみたいな感触がある。が、とにかくブックガイドとしてとても有用であると思うので随時利用していければ。/とりあえず、新実在論・メディオロジー・脱世俗化論あたりを。。。

読了日:05月20日 著者:岡本 裕一朗


自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)感想



ゲンロン0から。/リバタリアニズムの解説。様々な立場を紹介しつつ、筆者の森村さんの主張が展開される。とても説得力があるように感じたし、魅力も感じる。確かに極端だが、ちゃんと根拠がある。気になるのはやはり、子どもの扱い、将来の世代について、利他性への楽観など。/プライヴァシーの権利について(認めなくていい)や婚姻制度について(法的に廃止すべき)のやや極端な提言は(やはり人間に対して楽観的な気がするのだが)読んだかぎりでは同意できる。

-しかし、徹底した制度の話であるので、共同体やアイデンティティなど、具体的な生活のありよう自体、それへの意見の持ち方は全く別の問題。制度なんだから当然かとも思うが、現状ほかの制度はそうではない。ので、この点こそが最も素晴らしいポイントなんだろうと思う。制度は制度として設定しておいて、そのなかで各々が自分の信じるよい世界を目指すことができる。

読了日:05月21日 著者:森村 進


公私 (一語の辞典)公私 (一語の辞典)感想



ざっと読んだ。中国と日本の「コウシ」「おおやけわたくし」の比較による概念解説。日本の「領域の公」の共同性と中国の「つながりの公」の共同性の違い、日本の公私の重層構造などなど。言葉・概念が思考や行動を規定している好例のように聞こえるが、実証的にどうなのかは読んだだけでは判断がつかない。中国の「公」の民主化の課題については、あまり現状の欠陥がわからなかった。溝口→吉田孝→田原嗣郎・勝俣鎮夫と論の展開があるようなので、そちらをたどっていく。

読了日:05月21日 著者:溝口 雄三


翻訳と日本の近代 (岩波新書)翻訳と日本の近代 (岩波新書)感想



丸山と加藤の対談。対談は諸々漏れ出るものがある。丸山の学者としての姿勢とか、どういう文脈でものを考えているのかなど。加藤の質問に対して「それはわからないね」と答えるところが幾箇所もある。/丸山の、徂徠と福沢への愛着とか、小林秀雄宣長論への違和感とかも語られる。/「翻訳で読む方がラディカルになる」という安岡章太郎の話の紹介なんかも面白い。(誤配的な?)

-比較史的な関心に貫かれているし、まさにその比較史的な関心自体をも徂徠や福沢を通じて歴史化して語っている箇所もある。日本近世とヨーロッパ前近代~近代と両方の伝統の中で思考していることが伝わってきて、さすがに思想のスケールが大きいなと思わされる。

-丸山は人物で語るタイプなんだなというのがよくわかる。加藤はもう少し文明論的というかそこまで厳密でない印象。これは加藤が問題意識を携えて丸山に質問するという形式をとっているせいで起こっている対比でしかないかもしれないが。/「~かしら」とか「~なのね」とかの語尾がすこし気になる。古い雑誌でも読まないとここらへんの感覚はわからないな。

読了日:05月22日 著者:丸山 眞男,加藤 周一


グランドツアー――18世紀イタリアへの旅 (岩波新書)グランドツアー――18世紀イタリアへの旅 (岩波新書)感想



ゲンロン0から。以前副題をみたときには「18世紀イタリアへの(筆者の)旅」だと思って手に取らなかったのだが、「18世紀イタリアへの(18世紀ヨーロッパ知識人層の)旅」の話だった。「グランドツアー」なんて単語知らなかったよ・・・。筆者が岡田さんなので内容は美術史部分があつい。自分に美術知識が足りないことはよくわかる。図版は見やすいくらいの量なのでとてもよい。/しかし、ここで、ハーバーマスの「文芸的公共性」という言葉に遭うとは思っていなかった。サロンなどの人間関係の有り様は興味深い。

-1章「人」は猥雑さが魅力的。近代日本での浅草を感じる(?)。2章「自然」はイタリアの「ピクチャレスク」で「崇高」な自然への旅を辿る。アルプスにマルモレの滝にヴェズーヴィオ火山。なんだか『指輪物語』みたいだ。時期はずれるけどイギリス製のファンタジーの世界観にも影響あったりするのかな、と思っていたら『ナルニア国物語』の名前がでてきた。

読了日:05月22日 著者:岡田 温司


英米哲学史講義 (ちくま学芸文庫)英米哲学史講義 (ちくま学芸文庫)感想



経験論に発する功利主義分析哲学という2つの潮流を、現在のベイズ主義などへ流れ込ませる形で描き出す。哲学説史。向き不向きの問題なのだろうが、時代背景などが少ない哲学史(しかも元知識がほぼない分野)なので、なかなか頭に入らない。。。読みやすくはある。単語などの感覚を掴むためくらいの気持ちで読み通した。経験論というものが少しわかったように思う。/ロックが魅力的に語られており興味を持った。/ポパーやクーン、ダントの位置づけは歴史哲学がらみで気になるところ。

読了日:05月25日 著者:一ノ瀬 正樹


士(サムライ)の思想: 日本型組織と個人の自立 (ちくま学芸文庫)士(サムライ)の思想: 日本型組織と個人の自立 (ちくま学芸文庫)感想



93年版を加筆修正した文庫本。97年刊。『文明としてのイエ社会』への歴史家からの応答があったのは知らなかったので、読んだ。応答というよりも継承のようだが。(『文明としての~』未読)/現在日本の「日本型組織」の源流を武士団成立・近世の藩成立まで遡って、日本近代化への影響まで論じる。「日本型組織」称揚の色強め。「武士道」に日本型組織における「個」の自立をみたり、鷹山の「伝国の詞」に公共性理念の発展をみたりしている。

-公共性というよりも共同体主義(むしろ国民共同体かも)に近いんじゃないかという聞きかじりの政治哲学知識(斎藤純一『公共性』)。/近代化への寄与を論じるのはいいとして、その近代化がどこに行き着いたかについては全く触れないというのは、やはり非常に違和感がある。著者の専門からは外れるにしても。。

-ここでいわれるような「日本型組織」(タテ社会・集団主義年功序列・終身雇用 ・合意尊重・間柄重視、、、)が日本社会に広く見られる事が前提になっているという点にはただただ単純に時代を感じざるをえない。

読了日:05月28日 著者:笠谷 和比古


考古学と古代史のあいだ (ちくま学芸文庫)考古学と古代史のあいだ (ちくま学芸文庫)感想



タイトル通り、考古学と古代史の関係が主題。(むろん主軸は考古学)/考古学が歴史の解明について果たす役割が大きいこと、そのためには文献史学との協業が重要であるが、なれあいも手法の混同もいけないということ、などを具体的に古墳時代の研究を紹介することで言外に語り続ける本。/序章に、白石さん本人の研究者になるまで・なってからについての軽い自伝があり、これが面白い。中学の世界史の先生の話とか、大学(50年代に入学)でのマルクス史学への違和感とか。多数出てくる研究者の名前が総ルビなのもやさしくてよい。

読了日:05月31日 著者:白石 太一郎